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【いつものように…】 [小説ショートショート]

地下鉄ホーム

エヌ氏は今朝いつもの時間に家を出て、いつもの道を通り、そしていつもの駅に着いた。

これから会社まで1時間ほどの電車の時間だ。

ベッドタウンであるP市のこの駅からは既に通勤客ですし詰め状態だ。

いつもの車両のいつもの場所で吊革に手を掛けるとお隣のアール氏が人波を掻き分けるようにエヌ氏のとなりに乗り込んできた。

「おはようございます。」

軽い会釈とともにいつもの挨拶が交わされる。

しかしアール氏の顔つきがいつもと少し違うような気がしてエヌ氏は声を掛けた。

「今日は随分元気がないですね。どうかしましたか?」

「いえ、特にどうということはありません。ただこの満員電車にちょっと疲れてるだけですよ。」

「そうですか。ホントによくこれだけの人がいるもんだと感心してしまいます。でもマイホームを持つとなれば、こうでもしないと一生夢で終わってしまいますからね。お互いがんばりましょう。」

「おっしゃる通りです。我慢するしかないですね。」


二人はいつものように新聞に目を落とした。

それぞれの会社がある駅に電車が到着すると二人は吐き出されるように電車を降りていった。



日曜日、エヌ氏はチャイムの音で目を覚ました。

来訪者であることと、今日は朝から妻が出掛けていることに気づき、パジャマ姿のまま玄関のドアを開けた。

「おはようございます。私、個人地下鉄公社から参りました者です。」

その男は事務的に用件を説明し始めた。

話によると個人地下鉄なるものが既に開発されており、自宅の地下に駅を開設し専用の車両により会社まで運んでくれるというのだ。

まだ実験段階なので無作為に抽出した限られた人だけに契約のお勧めをしているということが付け加えられた。

エヌ氏はかなり怪しい話だと怪訝な顔つきをしていると、見透かされたように、

「大抵の方は、こちらを信用されないようです。詳しい内容を書いた案内書類を置いておきますのでご検討の上、ご希望の場合には期限内に申込書と申込金をお送り下さい。」

エヌ氏はせっかくの休日の寝坊を邪魔された上に一方的な話し方に内心腹をたてていたが、一応書類だけは預かることにした。



その夜、エヌ氏は妻に地下鉄公社のことを話した。

実はこのあたりでも何人かが既にこの「個人地下鉄公社」との契約を結び、実際に地下鉄で会社に通っていること、近所の主婦のあいだでは最近この話でもちきりだったこと、契約した人はみんな最初は半信半疑だったが、特に問題無く毎日会社に通っていることが妻の口から説明された。

妻が内心心待ちにしていたことは案内書を嬉しそうに眺める妻の表情からエヌ氏にもよくわかった。

案内書によれば自動車ローンとさほど変わらない額の使用料を支払えば契約の通り自分専用の地下鉄で毎日通勤できるのだ。



結局エヌ氏は契約を結び、いよいよ地下鉄による初出社の日を迎えることになった。

小さなホームに自分の登録番号の記された小さな地下鉄が到着し乗り込むと信じないわけにはいかなかった。

出掛けるときは久し振りに妻も見送りをしてくれた。

車両は思ったよりも小振りだが、騒音もなく快適に通勤できた。

その夜エヌ氏は、妻に地下鉄の快適さなどを話した。

妻もとても嬉しそうだ。

地下鉄ホーム003.jpg

今までに比べると使用料の負担が大きくなったが、それ以上の効果が期待できるとエヌ氏も満足していた。

「隣のご主人はまだ毎日駅に通っているみたいね。」

という妻の言葉にエヌ氏は若干の優越感も味わっていた。

しばらくはエヌ氏は快適な通勤生活を送っていた。



ある日、地下鉄公社から一通の通知が届いた。

その通知によると、年一回の保守点検作業があるので1日だけ地下鉄を利用できない日があるとのことだった。

「何も平日にやらなくても。」

と妻に不満を漏らしたが、たまにはあの満員電車を味わって地下鉄のありがたみを感じるのも悪くはないと思い直した。

点検日の朝、以前と同じ時刻に家を出て、以前と同じ駅で電車に乗った。

相変わらずのすし詰め状態だった。

エヌ氏は地下鉄のありがたみを感じる余裕も無く既に心のなかで

(何も平日にやらなくても…)

と、嫌気がさしていた。


以前の場所へやっとの思いで辿り着き新聞を広げようとするとアール氏がやはりエヌ氏と同じような形相でとなりの吊革につかまった。

「いやー。相変わらず大変な混雑ですなあ。」

エヌ氏はアール氏に若干の同情も込めてそう言った。

「ホントに。まいりますよ。」

「ところで、あなたはまだ地下鉄には加入は?」

エヌ氏は相手の気に障らないように気を遣いながらも一番きいてみたかったことをアール氏に投げかけた。

「いやー。地下鉄も便利なんでしょうけど、私はいいですよ。電車の方が広々して気持ちがいいですから。」

エヌ氏は不思議そうに聞き返した。

「確かに地下鉄はこの電車ほど広くはありませんが、それでも座って行けてとても快適ですよ。」

「いやあ、この電車も最近はすっかり利用者が減って毎日ガラガラですよ。ときには車両に私ひとりなんてこともあります。
 私は通勤中に車内をランニングしてすっかり健康的な通勤生活ですよ。地下鉄の点検日があるって聞いてたけどこんなに混むとはねえ。何も平日にやらなくても…」


そのあとのアール氏の言葉はエヌ氏の耳には入っていないようだった。

【いつものように…】
禁転載(リンクフリーです)

地下鉄ホーム002.jpg


《あとがき》

いかがでしたでしょうか、私の作品は?

以前の記事【Win95は健在だった…そして思い出が詰まった宝箱が開いた】でご紹介した、私が昔やっていたホームページに掲載していたショートショート小説です。

この小説はホームページ用に書き下ろしたものではなく、それより以前にショートショート小説の大御所 星新一さんが選者を務めた素人の投稿作品を集めた文庫本の余白に書き綴ったものをホームページ掲載用に当時を思い出して再現したものです。

私の兄が星新一さんの作品を好きで家にたくさん文庫本があったのを読んでいるうちに私もファンになりました。

(娘も小学校低学年の頃からファンになり恐らく全ての文庫本は読破していると思います)

自分も書いてみたくなって夜中に突然思い立って書いたのがこの『いつものように…』です。

確か旅行会社時代、ツタの絡まるビックリハウスで書いたと記憶しております。



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コメント 7

ハマコウ

おはようございます
何かを創り上げる とてもわくわくするものですね
楽しませて頂きました
by ハマコウ (2012-09-26 04:52) 

kohtyan

引き込まれるように読みました。
by kohtyan (2012-09-26 09:38) 

chunta

お久しぶりです~~<(_ _)>

ネットから離れて 3週間弱
このままではイカンッと 復活です
ご心配おかけしました <(_ _)>

星新一さんみたいです~
by chunta (2012-09-26 22:24) 

くるめっち

( ´ー`)ノこんにちは♬
ショートストーリーいいですね♪
実は私も、作文用紙2ページのショートストーリーを
何回か書いて応募していました(^^;
結果は・・・佳作3回で、とうとう大賞なしのまま、
諦めましたヽ(;▽;)ノ

はるさんのように、私もまた書きたい(ーー;)
by くるめっち (2012-09-26 23:28) 

はる

今日は、いっぱいコメントがあって嬉しいです!
ありがとうございます。

>ハマコウさん
楽しんでいただけて嬉しいです。私の場合、この長さが限界ですが…。(^_^;)

>kohtyanさん
わたくしにとっては最大限のお褒めのお言葉です。ありがとうございます。

>chunntaさん
お久しぶりです。お加減が悪かったのかなぁって察しておりました。
元気ですかぁ?また、ブログ遊びに行かせて頂きます!
ちょっとパクリ感満載ですかね?実はドラえもんにも似たような話がありますが…。(^_^;)

>くるめっちさん
すごいですね、応募するほどの作品が書けるとは…。
是非、今度ブログで紹介してくださいよ。
もし、ご自分のブログがダメなら、私のところでも。
え?図々しい?失礼しました。<(_ _)>
是非、新作も書いて下さい!

by はる (2012-09-26 23:55) 

いっぷく

私はこれまで小説を書いたことがありません。
どうやったら書けるようになるのでしょうか。
いざ書いてみようと構えると、何も書けないものです。
by いっぷく (2012-09-27 00:45) 

はる

いっぷくさん、コメントありがとうございます。
いっぷくさんでも書けないものがあるんですね。とても素晴らしい文章だと日々感嘆しておりますので…。
たぶん、「構えない」と少なくとも書けるかと…。
by はる (2012-09-28 01:52) 

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